「イラストを依頼したいけど、どう進めたらいいのかわからない…」
そんな人向けに、広告代理店で依頼側としても働く私が、制作現場で使われているフローをプロ視点でわかりやすく解説します。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆる「フリーランス新法」)で “発注者が依頼時に必ず伝えないといけないこと”もカバーした内容になっており、ここで流れを理解しておくと、

  • 依頼がスムーズになる

  • 無駄な修正が減る

  • 追加費用等のトラブルが防げる

と良いことだらけなので、依頼前のチェックにぜひご参考ください。


 

STEP1:オリエン&ヒアリング(要件定義)

イラスト制作で一番大事なのは最初の会話です。
ここですべてが決まると言っても過言ではありません。
フリーランス新法で発注時に“明示義務”がある内容も含めリスト化してみました。

💡 決めること&明示すべきこと

  • 業務の内容

    • 使用目的(広告・SNS・Webなど)

    • 使用媒体

    • サイズやファイル形式
      媒体に紐づくので、入稿の仕様やレギュレーションがある場合は最初に確認。

    • イラストの雰囲気・タッチ

    • 納品形式(PSD / AI / PNG / JPG など)

    • 納品媒体(メール送付 / BOX / Googleドライブなど)
      セキュリティの観点からを付けて納品を希望する場合などはこちらで取り決めておくと良いでしょう。

  • 報酬額

    • 追加作業が発生した場合についても取り決めておくと◎

  • 納期 工数の見積
    ガントチャートを作っておくと安心です!

  • 支払期日と支払方法

  • 権利関係(著作権・利用権の取り決め)
    二次使用にまつわることや、改変の可否などもこちらで決めておく。

  • 契約形態の明示(業務委託/請負)  

  • 契約の変更やキャンセル条件
    コンペ案件や、ラフまで描いたものの成果物に至らなかった場合などの取り決めです。

  • 継続の場合の契約期間・更新条件

👉 イメージに近い参考画像があると非常にスムーズです。

最初のすり合わせが9割。ここが噛み合えば制作がスムーズに進みます。
逆に「なんかいい感じで!」的にぼやかすと後で時間がかかることも。
また、イラストレーションは媒体によって費用が変わるため、単純な工数ではなく使用媒体も明確にしておく必要があります。
(同じ成果物であっても、カタログのカットイラストとTVCMでは、単価が変わります。)

STEP2:ラフ制作

ヒアリング内容をもとに、構図案(ラフ)を作成します。

💡 ラフで確認するポイント(例)

  • 構図
    ※コピー等のスペースを確保する場合その旨共有しましょう。
    (本来最初のオリエン時にわかる限りで共有しておくことがベスト)

  • キャラやオブジェクトの向き

  • 配色の方向性

👉 このフェーズがもっとも修正が多いポイントで、納品後の“イメージ違い”を防ぐ重要な工程です。
「ざっくりOK」であっても、後で大きくズレることがありますので、ここで決めきるつもりで進行しましょう。余裕を持ったスケジュールで進行することも大切です。

STEP3:清書(線画ペン入れ〜彩色)

ラフが固まったら、本番の制作に入ります。
ここからの大きな修正は負担が大きいため、修正は有料になる場合が多いです。

例えば

  • 配色の再構成

  • キャラの作り直し

  • 背景追加 など

書き直しになるような作業は追加費用が発生すると考えておいた方が良いでしょう。
追加費用については事前に確認しておくと安心です。

STEP4:納品データの確認

目的に合わせて最適なデータ形式が変わりますので、STEP1のオリエンで指定した形式や仕様になっているか確認を行います。

納品データの主な形式👇

  • PNG
    WEBでの使用が一般的、透過が使える。
    色数の少ないイラストレーション向き、ロゴ、アイコン、イラスト、図表など。
    APNGというアニメーションの形式も。

  • JPG
    こちらも一般的によく使われるファイル形式。こちらは透過はできません。
    写真や色数の多いイラストレーション向き。
    圧縮率を上げるとかなりデータを小さくすることができるため、WEBなど表示までの速度を気にする媒体に適しています。

  • PSD 
    Adobe Photoshopのファイル形式のため、専用のソフトでしか開くことができません。
    レイヤー等の情報を保持したまま保存できるため、線画と彩色、人物と背景を別にしておきたい、別々で調整する可能性がある場合こちらの形式での納品になります。

  • AI
    こちらもAdobe illustratorのファイル形式のため、専用のソフトでしか開くことができません。
    PSDと同様にレイヤー等の情報を保持したまま保存ができるのですが、PSDとの大きな違いは、拡大縮小しても劣化しないベクター形式である点となります。
    ロゴ等の標章を依頼する場合、商標登録を見据えるのであればAIデータがおすすめです。

また、カラーモードについて、印刷用途ならCMYK、WebならRGBが一般的です。

STEP5:権利関係の確認

ここ、めちゃくちゃ大事です。
STEP1に書いた通り、「フリーランス新法」に明示義務のある項目なので、発注時に明確にする必要があることがらではありますが、成果物を見て媒体が増えることやアプローチ方法を変えることもあると思いますので、最後にもう一度確認を行いましょう。

確認すべき内容👇

  • 使用範囲

  • 二次利用

  • 再配布の有無

  • 人格権の行使について
    「著作者人格権を行使しない」と契約書の雛形に書かれていることは多いですが、これは依頼者・クリエイター双方にメリット・デメリットがあります。よく理解したうえで合意することが大切です。
    実務上、私も全面的不行使にはせず、たとえば
    「著作者人格権は原則として行使しません。ただし著しく名誉を害する改変は除く」や「改変は都度協議する」
    といった条件付きの取り決めにすることが多いです。以下では、人格権のなかでもトラブルになりやすいポイントを解説します。

    • 公表権と氏名表示権
      公表権と氏名表示権とは、著作者が「いつ・どのように公表するか」そして「どの名義で公開するか」を決める権利です。依頼者側のメリットとしては、作品の公開時期を調整できるほか、公開名義を企業名に統一することで、一貫したブランドイメージを保ちやすくなる点があります。

      一方で、クリエイターが公表できない(名前を出せない)ということは、制作者が誰か見えにくくなるということでもあります。特に生成AIが商業領域に入りつつある現在、作風が似ているだけで“AI生成疑惑”が寄せられるケースがあり、制作者が特定できないことで不信感が生まれる可能性もあります。実務上、作風や画風自体は著作権の保護対象ではありませんが、ネット上では「AIっぽい」「○○の作風の模倣では?」と誤解を招くリスクは否定できません。

      氏名表示権の不行使は、商用利用では一般的な契約ですが、実績公開やポートフォリオ掲載の可否については契約書の別条項で必ず確認しておく必要があります。

    • 同一性保持権
      同一性保持権とは、著作者人格権の一つで、自分の著作物やそのタイトル(題号)が、著作者の意に反して勝手に内容を変更されたり、切除されたり、歪曲されたりしないように主張できる権利のことです。
      「著作者人格権」を行使しない契約に双方合意すると依頼者は成果物を自由に改変ができます。素材として扱いやすくなるため、依頼者にとっては大きなメリットです。

      しかし、自由に改変した結果、もとの世界観やイメージが崩れてしまい、結果守るべきブランドが毀損され、ファンが離れてしまう事態に繋がることも。
      また、信用が傷つく可能性から優秀なクリエイターほど著作者人格権の不行使を避ける傾向があります。
      こういったことが起きないよう、想定される改変について洗い出し、すり合わせ行うことがとても大事です。例えば、翻訳、トリミングはOK、色の変更については監修をさせてもらう等、改変の範囲を契約書に書いておく。キャラクターデザインにおいては、レギュレーションやチェックリストを作ることも有効です。

      なお、著作者人格権は「放棄」自体ができませんが、「行使しない」ことの合意は可能です。ただしこれはあくまで例外的な扱いなので、依頼者の利益だけでなく、双方の信用やブランドを損なわないか、事前に想定される改変について丁寧にすり合わせることが重要になります。ゲーム、出版、書籍など業界ごとに常識が違うため、慣習に沿ったやりかたを検討する必要があると言えるでしょう。

もし「制作を検討しているけど、何から相談していいかわからない」という場合は、ぜひご相談ください。

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※本稿は一般解説です。契約作成時は弁護士等の専門家に相談してください。

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